ヘルペス感染症

福岡大学皮膚科ではヘルペスウイルス感染症の専門的な検査、診療をしています。
ヒトに感染するヘルペスウイルスは9つが知られていますが、そのうち粘膜・皮膚と神経に感染するのは単純ヘルペスウイルス(HSV)の1型と2型、及び水痘(みずぼうそう)と帯状疱疹の原因となる水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の3種類です。

口唇ヘルペス

風邪をひいて熱が出た時に唇の周りに小さな水疱ができる病気です。症状が出る前にチクチクした痛みを前ぶれとして感じる場合も多くあります。
原因となるのはHSV-1というウイルスで、普段は脳から出る三叉神経という感覚神経の細胞の中に眠っています。時々目を覚まして神経の中を伝って唇に降りてきて病変をつくります。

このように書くと怖い感じがしますが、実は日本人の半分はこのウイルスを持っています。ウイルスを持っているヒトは年齢と共に多くなり、高齢の方では殆どの方が一度はこのウイルスに感染していると言えます。

では、どうやって私達の中に入ったのでしょうか。初めて感染するときに明らかな症状があるヒトもいますが、全然分からないうちに感染している可能性が高いと考えられます。
口唇ヘルペスは抗ウイルス薬という飲み薬で治療することで自然経過より早く軽く治ります。大切なのは正確な診断です。
福岡大学病院皮膚科ではこのHSV-1を検出する遺伝子検査を研究として行っています。これにより一体いつヘルペスウイルスが感染するために姿を現すのかを調査しています。

ヘルペスには治療薬があるので、正確な診断がとても大事になります。また、前ぶれが分かる方は先に薬をもらっておき、自分で飲み始める治療も可能になりました。
自分の病変がヘルペスなのか、クリニックで解らない場合は是非紹介状を書いてもらって当科を受診してみてください。

性器ヘルペス

性器ヘルペスは主にHSV-2によって起きる性器に水疱を作る病気です。初めて感染する場合にも口唇と違ってかなりひどい症状を呈します。男性にも女性にも生じます。
性交渉で感染しますが、そのような機会の後、数日で急に陰部が腫れて強い痛みが出て、水ぶくれが出来ます。
口唇ヘルペスと同じ抗ウイルス薬で治療できますが、症状が重いと排尿しにくいなどの症状が出ることもあります。HSV-2はその後ときどき陰部や臀部に再発性の病変をつくります。口唇ヘルペスと同じように、再発は軽い病変になります。

性器の粘膜周囲の皮膚にはヘルペス以外にもいろいろな病気があり、診断がとても重要です。ヘルペスでは無いのにヘルペスと思い込んでいる方もたくさんいます。
不安な場合はクリニックでそれまでの治療などを書いた紹介状を持って受診をして下さい。

治療は口唇ヘルペスと同じです。ただし、性器ヘルペスは口唇ヘルペスよりも頻回に再発するので、再発抑制療法と言って、毎日少しの抗ウイルス薬を飲むことで症状を出さなくすることが出来ます。
ただし、残念ながらこの治療で神経に潜むHSV-2を消すことはできません。

水痘(みずぼうそう)

水痘はVZVに初めてかかる時に生じる病気です。以前は子どもに流行するもので、主に冬に多く生じていました。
2014年からは日本でも1歳児の予防接種が始まり、それによって流行はなくなりました。現在は少数の子どもに散発的に診られるだけになっています。

VZVにも抗ウイルス薬があり、早めに受診することで軽症で済ませることが出来ます。

帯状疱疹

水痘の後、VZVは体中の神経に残ります。そして、何十年も経ってある日突然一つの神経から再度復活して皮膚に帯状の病変をつくるのが帯状疱疹です。
とても強い片側の痛みが特徴です。帯状疱疹は50歳を過ぎると非常に多くなり、1年間に100人に1人出るようになります。従って、現在の日本人では恐らく3人に1人は死ぬまでに一度は罹る病気になっています。

帯状疱疹にも抗ウイルス薬があり、早期に受診すれば高い効果があります。
しかし、免疫が弱った方に出ると全身に水痘の様な症状が出て発熱したりする場合もあります。症状が強い場合は入院の上、より効果の高い点滴の抗ウイルス薬を使う場合もあります。

帯状疱疹の症状がひどかった人、年齢が高い人はあとあとまで痛みが残る場合があり、帯状疱疹後神経痛と呼ばれます。
このように慢性化した場合は痛みの治療をするとともに、専門家であるペインクリニックという診療科と連携して治療する場合もあります。

帯状疱疹には予防ワクチンがあります。一つは生ワクチン(水痘ワクチン)で、もう一つは成分ワクチン(シングリックス)です。生ワクチンは1回接種、成分ワクチンは2ヶ月間隔で2回接種です。
費用は生ワクチンは安価で、成分ワクチンは高価ですが、予防効果は成分ワクチンが高くなります。生ワクチンは高齢では効果が出にくい、免疫抑制薬を飲んでいる方には打てないなどの注意点があります。いずれも50歳以上の方にしか使用できません。
福岡大学病院皮膚科では希望があれば患者さんに応じて帯状疱疹ワクチンを接種しています。希望のある方はご相談下さい。

これらのヘルペスウイルスについての疑問があって受診を希望する場合は、クリニックからの治療の詳細のわかる紹介状をお持ち下さい。

2023年 4月