アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎は「増悪・寛解を繰り返すそう痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ」と日本皮膚科学会が作成したガイドラインで定義されています。この文章の中のキーワードは「繰り返す」「そう痒のある」「アトピー素因を持つ」です。

つまり、痒みを伴い慢性的に経過する皮膚炎がアトピー性皮膚炎の本体であり、これに多くの場合は生まれ持った皮膚のバリア機能の異常やアレルギー体質が関与します。皮膚炎は左右対称性に生じることが多く、その分布には年齢ごとの特徴があります。

家族内で遺伝しやすい病気ですが、例えば一卵性双生児であっても片方の子供のみに発症する症例もあり、生活環境などの多因子的な影響も大きいと考えられています。
このため診断は特徴的な皮膚の症状と分布、臨床経過、家族歴などからなされますが、似た病気も多く存在するためより診断の精度を高める必要がある場合には皮膚の生検(細胞を採取し、顕微鏡で皮膚の状態を確認する検査)や血液検査を行います。

血液検査は診断のみでなく、アトピー性皮膚炎の病態に関わっているタンパク質(TARC)を調べる事で病気の勢いを評価する事ができるため定期的に検査する場合もあります。
また、食べ物や身の回りのダニ、ハウスダスト、化粧品やシャンプーなどの日用品によるアレルギー反応で症状が悪くなる事があり、必要に応じてアレルギーの血液検査、皮膚を用いたパッチテスト、プリックテストも行います。

治療については薬の開発も盛んな分野であり、昨今は選択肢が増えてきています。
古くから使用されているステロイドやタクロリムス、保湿剤などの外用剤による治療に加え、紫外線治療(ナローバンドUVB、PUVA、エキシマライト、エキシマレーザー)、抗ヒスタミン剤やシクロスポリン(免疫抑制剤)などの内服治療、そしてアトピー性皮膚炎の病態に深く関与する体内の情報伝達物質(サイトカイン)を直接抑える注射製剤の治療があります。

また、2021年よりサイトカインそのものではなくサイトカインの情報を細胞内に伝えるJAK(ヤヌスキナーゼ)という酵素を抑える外用剤と内服剤が使用できるようになりました。また免疫を抑えるのではなく体内の免疫のバランスを調整するPDE(ホスホジエステラーゼ)4阻害剤の外用剤も保険適用になりました。

ただし、現在の治療法は全て病気そのものを治してしまうものではなく、症状を上手にコントールするものになります。
また、アトピー性皮膚炎は皮膚のバリア機能障害にアレルギー性の炎症や痒み、皮膚の常在菌などが相互に関与して発症、悪化する病気であり、病気を悪くする一つの場所を抑えるのではなく、広い視野での複合的な治療が大事になります。

中でも痒みはアトピー性皮膚炎の患者さんを最も苦しめる症状であり、痒みを悪化させるストレスや汗、乾燥などに対する日常の対策やスキンケアもとても大事です。
痒みを如何に抑えられるかが治療における最重要課題で、痒みの改善は患者さんの生活の質(QOL)の向上に直結します。時には生活環境そのものを変える事も必要で、このような場合には数週間入院して頂く転地療法も効果的です。

また、入院中に連日の紫外線治療を組み入れる事でより効果的に痒みや皮膚炎を抑える事ができます。
このような様々な治療の選択肢がある中で、最終的には患者さんの年齢や重症度、生活環境などから最も適している治療の組み合わせを医師と患者さんでお互いに考え実行していく事が、それぞれの思い描く治療目標に近づくための一歩になると思っています。

文責:伊藤 宏太郎 2023年 4月記載