アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎は「増悪・寛解を繰り返すそう痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ」と日本皮膚科学会ガイドラインで定義されています。
アトピー素因とは①家族歴・既往歴(気管支喘息,アレルギー性鼻炎,結膜炎,アトピー性皮膚炎のうちいずれか,あるいは複数の疾患),または②IgE抗体を産生しやすい素因です。

アトピー素因のあるアトピー性皮膚炎では皮膚のバリア機能異常があり、幼児期~小児期より発症しさらに喘息やアレルギー性鼻炎など他のアレルギー疾患があり家族歴のあるいわゆる典型的なアトピー性皮膚炎の臨床経過を辿ることが多いです。外因性アトピー性皮膚炎と呼ばれるものの多くがこれに該当します。

一方で高齢化が進むにつれてアトピー素因のないアトピー性皮膚炎が増加傾向にあります。成人発症のアトピー性皮膚炎で、バリア機能異常や家族歴・既往歴がないにもかかわらず非常にそう痒の強い湿疹が増悪・寛解を繰り返すケースです。このようなケースは内因性アトピー性皮膚炎とも呼ばれます。

外因性アトピー性皮膚炎と内因性アトピー性皮膚炎の両者に共通するのは痒みを伴い慢性的に経過する皮膚炎です。

診断は特徴的な皮膚の症状と分布、臨床経過、家族歴などからなされますが、特に高齢発症のアトピー性皮膚炎に関しては皮膚悪性リンパ腫など特に鑑別が必要な疾患も存在するため、より診断の精度を高める必要があり、状況によって皮膚の生検(細胞を採取し、顕微鏡で皮膚の状態を確認する検査)や血液検査を行います。

血液検査では好酸球、非特異的IgE、TARCなどの数値を調べることでアトピー性皮膚炎の病勢を知ることが出来る上、非特異的IgEは患者のアトピー素因を把握するのに重要になります。全身療法が必要な中等症以上のアトピー性皮膚炎ではアトピー素因の有無や好酸球、TARCの数値で治療の選択肢が変わることもあります。

状況によっては食べ物や身の回りのダニ、ハウスダスト、薬剤・サプリメント、化粧品・シャンプーなどの日用品に対する過敏症で症状が悪くなる事があり、該当する患者さんは必要に応じて項目別の特異的IgE検査やプリックテスト(即時型反応検査)、薬剤リンパ球刺激試験やパッチテスト(遅延型反応検査)も行います。

治療については薬の開発も盛んな分野であり、昨今は急速に選択肢が増えてきています。
外用治療では古くから使用されているステロイドや保湿剤に加え、タクロリムスやJAK(ヤヌスキナーゼ)阻害剤、PDE(ホスホジエステラーゼ)4阻害剤も使用できるようになりました。全身療法では紫外線治療やシクロスポリン内服薬などの治療に加えてJAK阻害剤の内服や抗体の注射製剤(生物学的製剤)など、より標的を絞った治療薬の種類が増えてきています。

ただし、これらのアトピー性皮膚炎の治療法は全て病気そのものを根本的に治すものではなく、症状を上手にコントールするためのツールです。症状を上手にコントロールできるようになれば、よい皮膚の状態が維持でき痒みや湿疹によるストレスがなくなります。

多くの患者さんが根本的にアトピー体質を改善したいという希望を持たれて来院されます。しかし、アトピー性皮膚炎においてはアレルギー性鼻炎で行われている舌下免疫療法など少量の抗原曝露による根本的な体質改善を目的とした治療の効果はなく当然保険適用もないため当科では行いません。

アトピー性皮膚炎は環境因子や遺伝因子(皮膚のバリア機能異常や炎症関連の遺伝子)が相互に関与して発症する病気です。一つの標的を抑えるだけでは十分ではなく、複合的な治療が大事になります。例えばIL-13を標的とした抗体製剤が最近中等症以上のアトピー性皮膚炎ではよく使用されますが、体内のIL-13を抑えるだけでは十分な治療とはいえません。ステロイドや免疫抑制剤、保湿剤の外用を併用して十分な治療効果を得ることが出来ます。

また痒みはアトピー性皮膚炎の患者さんを最も苦しめる症状であり、痒みを如何に抑えられるかが治療における重要な課題です。最近はアトピー性皮膚炎の痒みを強力に抑える治療薬が複数出てきたことで一昔前は紫外線治療のために長期入院が必要となるような状態の患者さんでも外来で治療が完結できるようになりました。但し、外用剤の使用がうまく出来ないなど生活改善が必要な場合は現在も教育入院を行なっています。

このように様々な治療の選択肢がある中で、最終的には年齢や重症度、生活環境などから各々に合わせた最も適した治療を組み合わせ、医師―患者がお互いに協力して治療を行うことで、より良い皮膚の状態になることを目標に診療しております。

文責:佐藤 絵美 2024年 6月記載